ファウルトラブル
日向は実渕の『地』のシュートによりシュート妨害のファウルを取られてしまう。
しかし、実際に日向は当たってもいなかった。
必死の反撃の糸口を探していた誠凛と日向にとって、このファウルは手痛いものだった。
「なんだよそれ・・・!!いま接触は無かった・・なのになんでファウルとられなきゃなんねーんだよ!!」
納得の出来ない日向は審判に対して執拗に抗議する。
周囲でそれを見ていたリコや、伊月はその抗議をやめさせようとする。
「手をあげなさい早く!」
審判は、ファウルをした日向に対して、ルール通り手を上げることを要求する。
バスケットボールのルールではファウルを宣告された選手は、手を上げることと決められている。
これに反する場合はテクニカル・ファウルを取られることもある。
さらに、審判に対して暴言を吐いてもテクニカル・ファウルの対象となる。
しかし日向はさらに続けた。
「相手が勝手にバランスを崩したんだオレは悪くない。たのむよ・・・・オレは・・!」
その時、審判のホイッスルが短く鳴った。
「テクニカルファウル、黒4番!!」
日向はテクニカル・ファウルを取られ、ついに4つ目のファウルとなってしまった。
バスケットボールでは、ファウルを5つ取られた選手は退場となり、試合には出られなくなる。
試合時間が残されている中での4つ目のファウルは、事実上、ベンチへの一時退場を意味する。
残った希望
その様子を見ていた秀徳高校は口々に日向の行為を非難していた。
そして緑間も口を開いた。
「確かに目に余る愚行だったな。だがそれでも彼を責めることは出来ないのだよ。それほど勝ちたかったのだろう」
そして同様に試合を見ていた海常高校も、勝負はついたと感じていた。
黄瀬が口を開く。
「かろうじてだけど・・・まだ最後の希望が残ってるっス。・・・けど、たぶんもう・・・」
その視線は、火神に向けられていた。
無情
実渕は3本のフリースローのうち最後の1本だけを決めた。
わずかに差は詰まったものの、得点差は23点。
そして誠凛の攻撃。
最後の頼みは火神だった。
火神にボールが渡り、赤司との1on1となる。
赤司は火神に対し、冷静に言った。
「わざわざ進んでとどめを刺されにきたか。蛮勇だな」
「っ・・・・うるせえ!!」
火神は必死の形相でそれに応える。
『確かにコイツはバケモノだ。けどまだ可能性はある。入れれば今度こそなんとかしてみせる・・・!!』
火神を始め、誠凛のメンバー全員が賭けていた可能性があった。
それは、火神のゾーンだった。
しかし、その様子を見ていた黄瀬は哀れむように口を開いた。
「・・・ムリもない。洛山は・・・赤司っちは強すぎる・・・ゾーンを期待せずになんてやれっこないっス。ゾーンの扉はいかなる時も無情。すがる者に開くことは決してない--------」
そして次の瞬間。
赤司は火神のボールを奪った。
折れる心
誠凛はタイムアウトをとるが、対抗策は何も無かった。
試合で大差がついた時、バスケットほどつまらないスポーツは無い。
確率のスポーツとも呼ばれ、すなわち点差はほぼそのまま実力差であり、短時間で一気に大量得点出来るような術もない。
試合終了のブザーが鳴る前に決着はついたも同然となり、その後のプレイは勝敗にほぼ関係ない。
逆に、だからこそ、バスケットほど接戦がスリリングなスポーツも無いと言えるが。
観客席の今吉がつぶやく。
「決勝戦が必ずドラマチックになるとは限らん。大本命があっけなく勝つのもまた決勝戦や。もはや完全に心も折れた。希望の光りは全て消えた。誠凛はもう立ち上がれない。」
いやだ
黒子は、誠凛での日々を思い出していた。
バスケットに絶望してから、誠凛に入学し、仲間ができた。
この試合に臨む前日、バスケットをやっていて良かったと思うことが出来た。
そして、荻原の言葉を思い出した。
『オレはあの氷のような眼に手も足も出なかったけど、黒子なら必ずまた立ち上がって、氷を溶かすこともきっとできる』
黒子の眼から涙がこぼれ落ちる。
「-----いやだ。勝ちたい・・・・」
つぶやくように言葉を絞り出した。
そして立ち上がった。
「ボクは・・・!勝ちたい!ムリでも・・・!不可能でもっ・・・!みんなと日本一になりたい!!」
誠凛のメンバーも気持ちは一緒だった。
だが、勝つ方法を見つけることは出来なかった。
「けどそれでもカントク・・・・お願いします」
誠凛のメンバーチェンジが告げられ、黒子はコートへと戻る。
バスケットほどつまらないスポーツはない。
だがそれはここで終わればの話------