複雑だぜ
日向は中学時代を思い出していた。
『中学時代好きだったプレーヤーは、NBA選手のレイ・アレン。そして、実渕玲央。』
実渕のシュートフォームは滑らかでキレがあってカッコいい、と手本にしていたのだった。
しかし一方、日向はオネェキャラが嫌いだった。
人格の否定ではなく、好き嫌いで言えば、女々しい女も、女々しい男も嫌いだった。
そして、いま目の前に実渕玲央がいる。
日向の憧れたプレーヤーは、日向の嫌いなオネェだった。
『複雑だぜ・・好きなもんと嫌いなもん、実渕が両方兼ね備えたやつだったとわ・・・』
実渕を目の前にして日向は複雑な思いに駆られていた。
お手本のプレーヤー
日向と実渕の1on1。
日向は実渕のシュートを警戒し、少しディフェンスに距離を置いていた。
下手に近づくと、ファウルを取られながらシュートを決められてしまい、4点プレイとなってしまうからだった。
実渕には、ディフェンスに接触しながらでも決められる体幹の強さがあった。
日向はそれを警戒し、あえてディフェンスを離していた。
しかし、実渕が口を開く。
「だめよぉ。それじゃ」
次の瞬間、実渕は後ろに飛びながら3ポイントシュートを放つ。
『フェイダウェイで3Pだと!?』
フェイダウェイシュートは後ろに飛びながら打つため、力が予想以上に逃げる。
ましてや、距離のあるスリーポイントシュートでは、届かせるだけでも至難の業なのだ。
しかし実渕のシュートはゴールへと吸い込まれた。
『とんでも無く効率のいいフォームだ。下半身の力がもれなくボールに伝わっている』
日向は実渕のシュートを見て、そのフォームの良さに目を見張るのだった。
倒すべきプレーヤー
日向は敵でありながら、実渕の実力を改めて認めた。
しかしいまはそんなことを考えている場合ではなかった。
「よこせ伊月!!」
日向は伊月にパスを要求した。
「日向!!やり返してやれ!!」
『もう今はお手本のプレーヤーじゃねぇ。倒さなきゃなんねぇプレーヤーだ!!」
パスを受けると、日向はすかさず3Pを放つ。
以前よりも、重心を残す位置が遠くなり、【バリアジャンパー(不可侵のシュート)】はよりスピードを増していた。
実渕もこれには反応することが出来ない。
日向のシュートはゴールへと吸い込まれた。
シューター対決
根武谷が実渕に話しかける。
「ビデオで見た時もちょっと思ったけどよ。あいつのフォームお前に似てんな?」
「やっぱりそう思う?」
実渕も日向のフォームが自身に似ていることには気づいていた。
そして実渕は思った。
『けどまぁ似てるだけだけどね。とっくに自分に合う形にカスタムしてる。別物だわ』
「悪く無いわね・・・・」
実渕はニヤリと笑って、赤司に言った。
「ボール回してね。征ちゃん。」
「もちろんそのつもりだよ玲央。存分にやるといい」
赤司は冷静に応じた。
試合は3Pの応酬となった。
会場は、実渕と日向、どちらのシューターがこの勝負を制するかに注目していた。
しかし木吉は日向が分が悪いと感じていた。
実渕は、日向のタイミングに徐々に合わせてきているが、こちらは向かってくるシュートと離れていくシュートの2種類の3Pにいまだ対応出来ていなかったのだ。
そして・・・!
ついに日向のシュートが実渕にブロックされた!
洛山高校はすかさず反撃に出る。
そして再び実渕にボールが渡った。
日向は実渕を止めようと、ディフェンスで食らいつく。
いいもの見せてア・ゲ・ル♡
実渕が日向に言った。
「見直したわアナタ・・・・。思ってたよりずっといいシューターね」
そして口元に笑みを浮かべながら続けた。
「だからお礼にいいもの見せてア・ゲ・ル♡」
観客席に座ってその様子を見ていた無冠の五将、花宮がつぶやく。
「マジかよ・・あれ打つのか!?」
花宮によれば、実渕がよく使うシュートは2つ。
相手をかわしつつ打つシュート【天】。
相手にあたりながら決めるシュート【地】
そして、最後の一つ。
普通のシュート体制に入った実渕に対し、日向はブロックの態勢に入る。
『ただのシュート!?そんなもん撃たせるわけ・・・』
しかし日向は何かに押さえつけられたように、そこから動けなくなった。
『跳べない・・・!?なん・・・で・・・』
実渕はやすやすと3Pシュートを決めるのだった。
夜叉
そして、最後の一つ。
相手に何もさせずに決めるシュート【虚空】
誠凛の誰もが驚愕した。日向が勝手に動きを止めたように見えたからだった。
ついに実渕の隠れた実力が明らかになった。
3種のシュートを持つ将、【夜叉】実渕玲央。