伊月は一流だ
誠凛64-洛山80
誠凛の連続得点でついに16点差にまでスコアが縮まった。
葉山は悔しさを噛み締めていた。
『オレのせいで連続失点。なんで・・なんでこうなった!?止められないと思っていた・・・結局まだオレが伊月のことをナメていたからだ・・・!!』
自問自答の末に辿り着いた答えは、自分の読みの甘さが失点につながったという事実だった。
葉山は悔しさを押し殺し、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
そして、赤司に向かって言った。
「・・・赤司。ワリー、この先しばらくオレ一対一は控えるわ。相性最悪である意味火神よりやりづらい・・何より、伊月は一流のプレーヤーだ。考えなしにつっこんだらヤバい」
赤司は冷静な口調で返事を返す。
「・・そうか。頭は冷えたようだね。ならばいい。挽回まで大目に見よう」
実渕が葉山に声をかける。
「命拾いしたわねぇ。ホント・・・。あそこでもしムキになってすぐやり返そうとしてたらアンタどうなってたかわかんないわよ」
「・・あ、いやー完全に忘れてたわっ。伊月のことに夢中で・・・」
葉山は思い出したかのように、実渕の言葉に同調した。
ヌルい
洛山の攻撃は赤司を起点に始まっていた。
赤司は自らドリブルで火神に対する。
しかし、火神の超広域ディフェンスに対し攻める手立てはあるのか。
火神の正面から突っ込んだ赤司は、火神のディフェンス範囲につま先がふれた瞬間、即座にシュートを放つ。
これには火神もさすがに反応が遅れた。
「ヌルい」
冷酷な口調とともに、赤司の放ったシュートはゴールに吸い込まれる。
せっかく4点詰めた点差だったが、スリーポイントでまたも引き離されてしまうのだった。
赤司は火神に向かって言った。
「パスに気をとられて、スリーへの警戒が甘くなったな。細心の注意を払い、わずかでもゆるめるな。僕の動きを封じたければな。・・・とは言えそれも、時間の問題だがな。」
その言葉を受け、火神は考えていた。
『くそっ・・・もっとだ。ゾーンに入ると水の中を沈んでいくような感覚がある。深く潜れば潜るほど自分が研ぎ澄まされていくのがわかる。ゾーンにはまだ先がある・・・・!』
がんばるぞ!
誠凛の反撃は、黒子からのパスを受けた木吉が決め、着実に2点を返す。
しかし、誠凛には問題があった。
いまの誠凛にはシューターがいないのだ。
洛山には赤司以上に恐いシューターがいる。
もしも、スリーを多用してこられたら、誠凛はますます点差を広げられてしまう。
そのシューターこそ、実渕だった。
その実渕にパスがわたる。対するは小金井。
実渕は小金井に向かって言った。
「アタシは小太郎みたいに相手によってテンションが変わったりしないわよ?・・・ってなんでアンタちょっとどや顔なワケ?」
「なんでって・・どーだウチの伊月はすごいだろう、的な?今おしてるのウチじゃないの?だからオレもがんばるぞ!・・みたいな」
小金井が実渕にドヤ顔で返した。
リアクションに困る実渕だったが、直後の小金井のディフェンスに目を見張る。
実力差としてはこのマッチアップ、実渕VS小金井が一番大きい。
小金井は高校からバスケを始めたため、経験に圧倒的に差があるのだ。
そのため、伊月のように先を読むような方法は使えない。
しかし、小金井にはテニスで培った運動神経と器用貧乏と言われる程の器用さがあった。
小金井は実渕から目を離さず、考えていた。
『オレにはみんなみたいな経験からくる予測とかほとんど出来ない。相手の出方に全神経を集中するしかない!』
その小金井の姿をみて、周りの選手も、実渕も小金井が【野生の能力】に目覚めていると察知した。
火神や青峰、葉山に比べれば、小金井の野生はまだ及ばないものがある。
しかし、実渕は誠凛の選手に対して、油断が大敵であることを感じ取っていた。
油断ならないわね
小金井に対して油断ならないと感じた実渕は、ファウルをもらいながら決める【地】のシュートでさらに点差を広げようと考えていた。しかし実渕が【地】のシュートを打とうとしたその時、小金井が見ぬいたかの様に一歩下がった。
『一歩下がった!?【地】でくると読んだの?まさか、ありえないわ。たまたま下がったのなら【天】のシュートが撃ちやすくなっただけよ』
実渕は小金井の動きをみて、相手から遠ざかりながら撃つ【天】のシュートに切り替えた。
だが、小金井はフェイダウェイシュートを撃つ実渕に反応した!
あまりのことに驚いた実渕のシュートは、いつもの精度は無く、ゴールに弾かれる。
根武谷がすかさずフォローに入り、無理やりゴールにねじ込む。
惜しくもシュートは決められてしまったが、洛山の攻撃が失敗するところであった。
「つくづく誠凛は一人残らず油断ならないわね」
実渕は不敵な笑みを浮かべて言った。