光と影の力
黒子からパスを受けた木吉は、力強くダンクを決めた。
会場も大いに沸き立つ。
しかし、観客にはいつの間にパスが通ったのかわからなかった。
それは、黒子の影の薄さが戻った証拠だった。
スコアは、誠凛52-71洛山。19点差にまで縮まった。
ディフェンスでは火神が赤司を抑え、オフェンスで黒子がパスを通し点を取る。
まだ点差はあるが、光と影の力で希望をつないでいた。
タイムアウト
誠凛が得点を入れたところで洛山がタイムアウトを取った。
まだ点差は19点あるが、誠凛の勢いを放っておくわけにはいかなかったからだ。
会場で見ていたかつての対戦相手、そして洛山の選手達は、当然黛が交代するものと思っていた。
黒子の特性を取り戻させてしまった黛の罪は重い。
洛山チームメイトの根武谷、実渕、葉山の3名も交代は当然だと考えていた。
上書きにより特性は失われ、パスはもう使うことが出来ない。
1on1で勝てる選手なら控えにもいるからだ。
一方、誠凛高校はわずかな休憩時間を使い、回復に専念する。
エネルギー補給、アイシング、マッサージ。
そして、木吉のテーピング。
監督のリコは手早く指示を出す。
そんな中、日向は一人落ち込んでいた。
「・・・すまねぇ。これからって時に・・・オレはあん時の大ポカのせいでっ・・・」
それを聞いた木吉は日向に答えた。
「思いつめすぎだ。ダァホ」
そのセリフは、かつて日向が木吉に言った言葉だった。
そして木吉は言葉を続けた。
「仲間を信じろよ日向も。必ずまた日向のスリーが必要になる。頼むぜキャプテン・・・!」
まだ必要だ
タイムアウトが終了し、両チームがコートに戻る。
しかし、誰もがその光景に驚く。
黛千尋が再びコートに戻ってきたからだ。
黛の特性はすでに失われている。
いまの黛は、洛山の中ではただの平凡な選手に過ぎない。
それなのになぜ、黛を出し続けるのか。
黛を出し続けるということは、黒子の影の薄さを際立たせることになる。
少なくとも、1on1で勝てるからと言って出しておくメリットは無いはずだ。
タイムアウト中、赤司は黛にこう告げていた。
「玲央達の言う通り、さきほどまでのプレーは失態だ。下げるのが当然の選択だろう。」
そして、微笑みを浮かべながら続けた。
「だがお前の力はまだ必要だ。下げたりするものか。洛山の勝利のために、期待しているよ」
消えるボール
洛山の攻撃は、再び赤司を起点に開始された。
しかし、赤司には火神が超広域ディフェンスで対応する。
攻めあぐねる赤司。
黛が、パスの中継としてボールをもらおうと動く。
赤司は黛に視線を向けた。
次の瞬間、火神はボールを見失うのだった。
ボールを受けに行った黛も驚きを見せた。
火神は何が起こったのかすぐに把握出来なかった。
「ボールが消え----」
ボールは、黛とは逆サイドの実渕へと飛んでいた。
実渕がすかさずスリーポイントを決める。
道具
伊月が黒子にミスディレクションオーバーフローの可能性を尋ねた。
しかし黒子はそれを否定する。
「黛さんは何もしていません。黛さんは今、上書きによって特性が反転して、視線を集めやすくなっている。そこに赤司君が火神君の視線を誘導したんです」
観客席で見ていた紫原がつぶやく。