赤司のゾーン
会場に来ていたキセキの世代全員が、その光景に目を疑った。
ゾーンに入っている火神のメテオジャムを、飛ぶ直前にいともたやすく赤司は止めたのだ。
そしてそのまま誠凛のゴールに向かって行く赤司。
「待ちやがれ・・・赤司ぃ!!」
体を反転させて、すぐさま赤司を追いかける火神。
しかし、その火神ですら、追いつくことが出来ない。
それどころか赤司との距離が開いてしまう。
『追いつけねぇ・・・どころか離されるだと------!?』
火神も目の前の光景が信じられなかった。
「止めろ!!」「何としても止めるんだ!!」
赤司の前に、日向と伊月が立ちはだかる。
「・・・ここまで僕に歯向かったんだ。ただ座り込むだけでは足りないな」
赤司は静かにつぶやくと、トップスピードからの緩急をつけ、アンクルブレイクで日向と伊月にヒザをつかせた。
「跪け」
静かに言い放ち、ヒザをついた日向と伊月の間をすり抜ける赤司。
だが、ゴール前には木吉と黒子が赤司を止めるべく立ちはだかる。
ゴールに眼を向ける赤司のシュートブロックに跳ぶ木吉と黒子。
しかしそれはフェイクだった。
両手を上げたままの二人の間を凄まじい速さですり抜ける。
「そのまま讃える姿で思い知れ。お前たちの敗北は絶対だ」
赤司は静かに言い放ち、シュートを決めた。
十分だろ
ゴールからゴールまで一人で持っていった赤司。
その圧倒的な力に、会場は大きくどよめき、誠凛は動揺を隠せない。
誠凛はタイムアウトを取った。
『ゾーンに入った赤司・・味方を使うのをやめても・・いや、やめた方が強いとかオレらの存在意義もグラつく化け物ぶりだろ。グラつくどころか・・・マジで必要としてない・・のか・・!?』
赤司のゾーンを目の当たりにし、黛は驚愕していた。
タイムアウトの洛山ベンチは、誰も言葉を発せず、重苦しい空気が漂う。
赤司がゾーンを使ったということは、無冠の五将三人を見限った証拠だったからだ。
一方の誠凛ベンチ。
「オレがやる」
火神が覚悟を決めた表情で言った。
「おう、んじゃ頼むわ」
日向があっさりと返事した。
その様子を見ていたベンチメンバーは、あまりのカルい反応に驚いていた。
「・・・うん妥当だと思うよ。」
伊月も同調する。
「わかった」
木吉も同意した。
黒子にも焦る様子はなかった。
その軽さに、意図を掴みきれないベンチメンバー。
そこに対して日向が言った。
「今までもずっとそうだったじゃねぇか。キセキの世代とやるならこういう局面は必ずくる。エースに託さなきゃならねぇ時が。託せるエースがいなかったらお手上げだったかもな。」
そして、立ち上がりながら、言葉を続ける。
「うちには火神がいる。そんで十分だろ」
日向は火神の胸に、拳を当てながら言った。
伊月、木吉、そして黒子も、火神に託すように拳を当てる。
そしてベンチメンバー全員が、火神に拳で託した。
「わかってるわね火神君。赤司君とはここまでもずっと戦ってきてるけど、もう動きを封じるとかそういう話じゃないわ。正真正銘のガチンコ勝負よ。勝てぇ火神!!」
監督のリコが火神を鼓舞する。
「おお!!」
火神も自らの拳を胸に叩きつけ、応じた。
ゾーンの先
「青峰・・・一つ気になっとったんやが」
観客席で観戦していた今吉が、青峰に質問をぶつける。
「さっき、ゾーンが深くなっとるとか言っとったな。アレは一体どういうイミや?」
今吉は、青峰が火神を見て言った言葉が気にかかっていた。
「・・・これからすんのはあくまでもイメージの話だ。プレイ中はプレイのことしか頭にねぇ。」
青峰は、今吉の質問に対し説明を始めた。
「ゾーンに入る時、でかい扉があってそれを開ける。開けると水の中にいて、集中力が増すほど深く沈んでいく。底につくと、それがゾーンに入りきった状態。自分の性能を全て引き出せる。」
一呼吸置き、さらに青峰は説明を続ける。
「だが・・・そこにはもう一つさらにでかい扉があって、その扉の前には顔の見えない誰かが立っている。門番のように」
「青峰の中のイメージの話や。誰かいるとしたら青峰自身。門番だとしたら、自分自身の何かに打ち勝てはその扉が開く。そう考えるのが自然やろな」
青峰の説明を聞いた今吉が、推測を交えて返事をした。
青峰は、今吉の推測に対してさらに言葉を重ねる。