絶望の淵
誠凛はこれまで何度も絶体絶命の窮地を乗り越えてきた。
それを実現したのは、どんな時も決して折れることの無い心だった。
しかしいま、その心までも折れようとしている。
帝王・洛山高校の前に、誠凛は絶望の淵で第2クォーターを終えた。
諦めるな
インターバルの誠凛ロッカールームは重苦しい空気に包まれていた。
監督であるリコは何か言葉をかけ、選手を奮い立たせようとするが、言葉がみつからない。
その時、キャプテンの日向が吠えた。
「諦めるな・・・!!試合はまだ終わってねえ。チャンスは来る・・いや!死んでもこじあけるんだ」
その言葉に、部員たちは勇気を奮い立たせる。
しかし現実として、差はとんでもなく開いていた。
部員から一体どうやって差を縮めるのか、と弱気な発言が出る。
日向はそれに対して答える。
「ガンガンボールよこせ決めてやる。3Pの連発で勝負をかける」
そして、木吉に言った。
「けどもし落ちちまったら頼むぜ、リバウンド。あんなゴリラに負けんな」
その言葉を受けて、リコが付け加えた。
「それだけじゃ足りないわ。火神君!お願い。ここから希望の光がさすかどうかはアナタにかかってるわ」
そしてリコは、洛山の攻撃は赤司であり、赤司を止めない限りどうにもならないことを話す。
そこで、伊月に引き続き黛のマークをさせ、火神に赤司をマークするように指示を出す。
諦めない限り
インターバルが終了し、両チームがコートに揃った。
「行くぞぉ誠凛----ファイ!!おお!!」
誠凛は円陣を組み、全員で気合を入れた。
それを見て実渕がつぶやいた。
「必死に振り払ってるようにしか見えないけど。今にも心を覆いつくそうとしている絶望の闇を」
コートに向かう火神に黒子が声を掛ける。
「火神君・・・・お願いします・・・!!」
「おう。まかせな・・・!!」
そして、お互いに拳を合わせた。
黒子はインターバル中、ビデオを食い入るようにみていたが、依然として解決策は見当たらなかった。
そして第3Qが始まった。
誠凛は開始と同時に、スクリーンプレイから日向が3Pを決める。
観客席で見ていたかつての対戦相手も、ここから追いつくのは難しいと見ていた。
状況は絶望的。
バスケットボールに一発逆転はない・・それでも諦めない限り0%になることはない・・・・!
誠凛は声を張り上げプレイに集中していた。
しかし紫原が冷めた表情で言った。
「あのさ~悪いけど・・勝てないって言ったのは、状況だけを見た話じゃないよ~?」
赤司の指示
インターバル中、洛山高校のロッカールームでは赤司が部員に話をしていた。
「もはや、勝負は9割方決まった。だが、誠凛はまだ完全に死んではいない。特に、4番日向と、10番火神。この二人を今波に乗らせると、万一の可能性がある」
そして赤司は、自分が火神にマークにつくこと、さらに実渕にファウルを1つ。可能なら2つ取れと命じた。
まだだよ
紫原と同様に、青峰も試合の様子を見て、誠凛には1%も勝利の可能性が無いことを話していた。
赤司のやり方は力ずくで勝つようなやり方ではなく、徐々に首をしめるように、相手の可能性がなくなるまでつみとる。
会場にファウルの笛が鳴り響く。
実渕のシュートブロックに出た日向が、ファウルを取られたのだった。
実渕は不敵な笑みを浮かべて日向に言った。
「短い間だけど楽しめたわよ。順平ちゃん」
これで日向のファウルは3つ。
5ファウルで退場となるため、4つ目を取られたら普通はベンチに下がることになる。
そして、それを恐れてファウル3つでもプレイは縮こまってしまう。
赤司が冷酷な表情でつぶやいた。