不可解なマークチェンジ
黛には全く理解が出来なかった。
自分に伊月がマークとしてつくのは、伊月のホークアイがミスディレクションの天敵であるがゆえに、順当ではある。
しかし、伊月に代わり赤司をマークするのが、なぜ降旗なのか。
黛だけではなく、赤司もわずかながら困惑した。
ただし、弱すぎてどうしよう、という思いからであった。
大マジメさ
第2クォーター残り8分31秒。
洛山高校のスローインから、試合は再開した。
根武谷は木吉に対し、赤司に冗談は通じないからもっとマシなやつに代えろと進言をする。
「木吉ぃ・・・オメェらの血は何色だァ!!?」
「こっちは大マジメさ」
必死のディフェンスを見せる降旗。
食らいついているように見えたがしかし、赤司の敵では無かった。
『やはり・・話にならない。わざわざパスターゲットを探すほうが手間なくらいだ』
赤司はあっさりと降旗を抜き去る。
しかしその直後。火神が赤司のコースを塞いだ。
誠凛の狙い
誠凛の狙いは、赤司に降旗を抜かせ、火神にインサイドでフォローをさせることだった。
しかしそれでも赤司を止められる保証はない。
ここで紫原があることに気づいた。
「赤ちんあの位置だとアンクルブレイク出来ない・・・・かも」
抜かれた降旗は、火神に代わりすぐに葉山へのディフェンスについた。
つまり、赤司が降旗を抜き、その赤司を火神がフォローし、火神が離した葉山に対し降旗がディフェンスにつくという一連の流れがすでに出来上がっているのである。
誠凛の監督であるリコの考えは、まずは黛を止める、ということであった。
そのためには、黛に対し天敵であるホークアイを持つ伊月をマークにつけるしかない。
そして赤司に対しては、とにかくスリーポイントを打たせないようにフェイスガードでディフェンスすること。
わざと抜かせて、火神をヘルプでぶつける。
赤司のアンクルブレイクは相手の重心を崩すため、必ずドリブルを切り返す。
しかし、中に入ってしまってはそのスペースが確保出来ないためアンクルブレイクが使えないのだった。
黛を封じ、同時に赤司のアンクルブレイクを封ずる。
これが誠凛の狙いだった。
普通のシュート
しかし赤司は、前後の緩急だけで火神を抜き去る!
諦めずに食らいつく火神。シュートをわずかに弾くが、防ぎきることは出来なかった。
得点を防ぐことが出来なかったものの、赤司のシュートに触れ、防ぐ寸前まで追い込んだことは大きな収穫だった。
しかし勝つためとはいえ、降旗は囮に過ぎない。
会場の誰もがそう感じ、それは降旗のディフェンスにつく黛も同じだった。
『コイツに出来るのは味方のサポートぐらい。シュートなんてどうせねぇんだ。マークは甘くしていい』
黛が降旗から目を離したその時、木吉から降旗へパスが通った。
黛は侮っていた。
辛く苦しいバスケットの練習に耐えてきた降旗の力を。
全国大会決勝に出場するほどの高校で練習に耐えてきた選手である。
スーパープレイだけがバスケットではない。
普通のシュートを普通に決めるために選手は練習をするのである。
降旗のスリーポイントシュートは、普通にゴールへ吸い込まれた。
リコはその様子をみてほくそ笑む。