可能だ
ウィンターカップ初日終了後の夜。
洛山高校調整用体育館では、赤司が一人コートに立っていた。
赤司は、ウィンターカップ初戦での青峰の闘いぶりを思い出していた。
『ゾーンは僕も経験がある。だが大輝のそれで驚くべきは自らの力で意図的に入ったことだ』
赤司は静かに目をつぶり、全身の力を抜く。
そのまま少しの時間が過ぎた。
「・・・うん。」
赤司はゆっくりと目を開き確認するようにつぶやいた。
そして、ゾーンについての考察を始めた。
『・・・可能だ。扉を開ける腕力となるだけの集中力。そして扉の鍵となる自分にとってのトリガーを自覚できれば。とは言えこの巨大な扉を前にして本能でその方法にたどり着くのだから、大輝にはやはり舌を巻く』
笑みを浮かべながら赤司が考えていると、チームメイトである無冠の五将の三人、実渕、根武谷、葉山が体育館にやってきた。
明日の試合に備えて、少し体を動かそうと思いやってきたらしい。
すると赤司は、三人に向かって言った。
「・・・ならばちょうどいい。少し相手を頼む。」
「おーいいよやろーぜっ。何?1on1?」
赤司の言葉を聞いた葉山がすかさず返した。
「いいや・・・3対1だ」
赤司は静かに三人に向かって言葉を続けた。
赤司の実力を認める無冠の五将の三人も、さすがにこの言葉にはプライドが傷つく。
根武谷、実渕、葉山の三人は赤司を睨みつけ、さすがにそれは負けるわけがない、どうなっても知らない、と赤司に忠告をした。
・・・・・しかし。
赤司は3対1で無冠の五将の三人をいとも簡単に倒してしまった。
「・・・・よし、これならば実践も問題ないだろう」
床に這いつくばる三人を前に赤司は静かに言った。
赤司のあまりの実力に驚く無冠の五将の三人。
その様子を意に介さず、赤司は言葉を続ける。
「・・だがこれは切り札と呼ぶべきものだ。切り札を出すということはすなわち、状況が洛山にとって危険であることを意味する。そしてもう一つ。・・・これは忠告だ」
4連続得点
ウィンターカップ決勝、誠凛対洛山の試合は誠凛が3連続得点を重ね、誠凛76-洛山88と誠凛が12点差にまで迫っていた。
そして誠凛は攻撃の手を緩めない。
「3連続ぽっちで満足するな!!勝つためにはまだまだ足りんぞ!!」
木吉が叫んだ。
誠凛はステルスオールコートマンツーマンディフェンス(S・A・M・D)で、さらに洛山を追い詰める。
ゾーンに入った火神のディフェンスエリアを考えると、このディフェンスを前に黒子に捕まらないパスコースは殆ど無い。
洛山高校にとっては、攻める手段が見つからないほどのディフェンスだった。
そして、実渕のパスを黒子がカット!
黒子からポストポジションの木吉にボールが渡る。
根武谷VS木吉
木吉は力任せに根武谷にぶつかっていく。
『このパワー・・その上さっきは足に負担のでかいスピンも。木吉テメェ・・足のケガがどうなってもいいってのかよ?』
根武谷は木吉の全力のパワーに驚きを隠せなかった。
しかし、それでも根武谷のパワーは木吉の突進を止める程の力を持つ。
だが、パワーで競い合えるからこそ、次の一手が打てる。
木吉はフェイクを織り交ぜたスピンで、根武谷をかわしダンクシュートを叩き込んだ。
誠凛の4連続得点!
ついに誠凛が10点差にまで追いついた。
誠凛78-洛山88 残り時間8分50秒。
忠告だ
その様子を見ていた赤司は、静かに実渕に言った。
「実渕・・・次の攻撃だけお前たち4人で攻めろ。」
「え・・・?ちょっ・・征ちゃんそれってどういう・・・」
実渕が問いかけようと赤司を見ると、そこには冷徹な眼差しの赤司がいた。
その眼に、実渕は身を震わせる。
そして赤司のパスから洛山の攻撃が始まる。
赤司はパスを一気に葉山まで通す。
誠凛のステルスオールコートマンツーマンディフェンスをたやすく中盤まで抜けてしまった。
急いでディフェンスを整えようとする誠凛。
しかし、その異様な光景に誰もが眼を疑った。
「どういうことだ・・・赤司が自陣から動かない・・!?」
誰もが疑問に思う中、試合を観戦していた青峰だけが気づいた。
『あのやろう・・・まさか---------』
赤司は自陣で一人、深く集中していた。
その様子を見ていた実渕は、ウィンターカップ初日の夜の3対1での勝負のことを思い出していた。
『征ちゃんのあの眼は、あの時と同じ・・・』
赤司はあの夜、三人に忠告していた。
「そしてもう一つ・・・これは忠告だ。この状態になるためにはトリガーが人それぞれあり、僕にとってのそれは、僕が己の力のみで戦うと決めた時。お前たちに失望し、見限った時だ」
赤司は冷徹な眼差しを三人に向けていた。
いまの赤司は、あの時と同じ眼をしていた。
赤司を除いた洛山の攻撃は、火神のスティールによって阻まれる。
スティールしたボールをそのまま、洛山陣営に一人で持ち込む火神。
『決める!!この状況なら前半のようにメテオジャム破りは使えねーはずだ!!』
目の前に立ちはだかる赤司の上から、メテオジャム(流星のダンク)を叩き込もうとする火神。
「くらえ赤司!!」
・・ダンクの体勢に入った瞬間のことだった。
赤司は火神の手からボールを瞬時に奪い取った。
あまりの出来事に驚きを隠せない火神。
『なっ・・・速えぇ・・!!いつの間に・・!?これは・・・まさか・・・』
その様子を見ていた誠凛のメンバーの誰もが目を疑った。
そして赤司は全員を見下すように言い放った。